「軽石」(木山捷平)

身近にありそうな、なんともいえないおかしみ

「軽石」(木山捷平)
(「日本文学100年の名作第6巻」)
 新潮文庫

焚火に凝っていた正介は、
燃えかすの中から
拾い集めた鉄釘を、
ある日、屑屋に売り払う。
しかしそれは
三円にしかならなかった。
正介はその三円で
「何か」を買おうと思い立つ。
ところが三円で買えるものなど
なかなか見つからず…。

何も事件が起こりません。
どこにでもあるような「日常」
(それも正確には「昔の」)を
切り取っただけの作品なのですが、
その分、なんともいえないおかしみが
随所にちりばめられている作品です。

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①手段と目的が入れ替わる
焚火は楽しいものです。
でも物事には
限度というものがあるでしょう。
正介は、不要品が底をつくと、
八百屋から空き箱をもらってきてまで
焚火をする始末です。
不要品処理のための手段だったのに、
それが目的になってしまっています。
私たちの生活にもありがちです。

②売り払ってから後悔
たかが海苔の缶いっぱいの古釘
(しかも焼け焦げた)、
不要品を引き取ってもらって
お金がもらえるのなら
それでいいと思うべきなのでしょうが、
なんとなく
損をした気分になっているのです。
「不要品だから」と割り切ることが
なかなかできないのでしょう。
私たちの生活にもありそうです。

③意地になって価値を見いだす
その三円を、
形あるものに変えることにより、
気持ちを収めようとしています。
ところがそんな商品は
おいそれとはないでしょう
(現代でいえば30円程度でしょうか)。
「耳かき」ならと思い、
値段を尋ねると十円。
さらには「五円に負けてくれないか」と
切り出すさもしさ。
別の店では「三円で買えるものは
ありますか」と質問し、
半日歩き通してようやく雑貨屋で
見つけたものが「軽石」なのです。
正介は喜び勇んで帰宅するのですが、
費用対効果を考えると、
かなり高価な軽石といえそうです。
似たようなことは
私たちの生活でも見つかりそうです。

④些細なことが心配
屋根廂に落ちている釘を目にした途端、
いずれは庭に落ちて
誰かが踏んでけがをすると
心配になります。
ひもに磁石をつけて
取り除こうとするのですが失敗。
アンテナの修理に来た電気工に
頼んで取り除いてもらいます。
その描写も一つ一つ丁寧であり、
おかしみを感じてしまいます。
そして無事取りのけたあとは、
「体内のジストマ(寄生虫)を一ぴき
取出したような晴れ晴れした気持ち」に
なっているのです。
私たちの周囲にもありそうです。

一つ一つ抜き出していけば、
作品本編よりも長くなりそうですので、
ここまでにします。
最後に、その軽石が十年
使われていたことが描写されています。
十年持ったとすれば、
それなりに賢い買い物だったと
いうことでしょう。

三人称で書かれていますが、
正介はおそらく作者そのものであり、
私小説といって差し支えないような
作品です。
書かれていることの多くは
事実と思われます。
「古本極楽ガイド」
(岡崎武志著ちくま文庫刊:絶版)には
「木山捷平「軽石」体験ツアー」なる
体験記が掲載されてあると
いうのですから、間違いなさそうです
(私はまだ未読ですが)。

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奇をてらったところの何一つない
素朴な文体の木山捷平
これから他の作品も
探してみたいと思います。

〔本書収録作品一覧〕
1964|片腕 川端康成
1964|空の怪物アグイー 大江健三郎
1965|倉敷の若旦那 司馬遼太郎
1966|おさる日記 和田誠
1967|軽石 木山捷平
1967|ベトナム姐ちゃん 野坂昭如
1968|くだんのはは 小松左京
1969|幻の百花双瞳 陳舜臣
1971|お千代 池波正太郎
1971|蟻の自由 古山高麗雄
1972|球の行方 安岡章太郎
1973|鳥たちの河口 野呂邦暢

(2022.5.26)

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以下の記事をリニューアルしました。

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